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大阪地方裁判所 平成5年(わ)2266号 判決 1994年4月19日

本店所在地

大阪市西区九条二丁目一一番二号

有限会社輝企画

(代表者代表取締役 細川静雄)

本籍

大阪市西区本田一丁目八番

住居

兵庫県伊丹市昆陽字赤所一丁目二番 ルミナス伊丹一〇二号山根昭永方

会社員

倉持勝弘

昭和三二年一二月一四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官八澤健三郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社輝企画を罰金三五〇〇万円に、被告人倉持勝弘を懲役九月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社輝企画(以下、「被告会社」という。)は、大阪市西区九条二丁目一一番二号に本店を置き、劇場経営等を目的とし、ストリップ興行等を営む資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人倉持勝弘(以下、「被告人」という。)は、被告会社の実質的経営者としてその業務全般を統括している者であるが、被告人は、被告会社の代表取締役である武元久夫らと共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て

第一  昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億八七二一万六五七一円で、これに対する法人税額が七七六三万九六〇〇円であるのに、興行収入の一部を除外するなどの行為により、その所得の全部を秘匿した上、平成元年二月二八日大阪市西区川口二丁目七番九号所在の所轄西税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が五九万三四八二円でこれに対する法人税額が〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税七七六三万九六〇〇円を免れ(別紙1の1の修正損益計算書及び別紙2の税額計算書参照)

第二  昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億六三〇二万九〇五円で、これに対する法人税額が六七五〇万六五〇〇円であるのに、前同様の行為により、その所得の全部を秘匿した上、平成二年二月二七日前記西税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が一一〇万九一二八円でこれに対する法人税額が〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税六七五〇万六五〇〇円を免れ(別紙1の2の修正損益計算書及び別紙2の税額計算書参照)

たものである。

(証拠の標目)<注>括弧内の算用数字は記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)記載の当該番号の証拠を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  細川静雄の検察官に対する供述調書

一  武元久夫(五通)、山本幸男(三通)、平井市郎(三通)、中尾潤(三通)、山根太(六通)及び大村政一(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  収税官吏作成の査察官調査書四通(14ないし16、18)

一  法人の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)

一  大蔵事務官作成の証明書(3)

一  収税官吏作成の査察官調査書一四通(6、8、10、12、19ないし28)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(2)

一  大蔵事務官作成の証明書(4)

一  収税官吏作成の査察官調査書一六通(7、9、11、13、17、 29ないし39)

(確定裁判)

被告人は、平成二年五月二四日神戸地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年二月、執行猶予三年に処せられ、右裁判は同年六月八日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書及び右裁判の判決謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するが、右は前記確定裁判のあった覚せい剤取締法違反の罪と刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示法人税法違反の罪について更に処断することとし、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役九月に処することとする。

被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各所為につき、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、罰金額をその免れた法人税の額以下とし、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金三五〇〇万円に処することとする。

(争点に対する判断)

一  被告人の本件各犯行については、被告人の前科との関係で被告人に対する執行猶予の可否が問題になるので、まず被告人の前科について検討する。

被告人の検察官に対する平成五年七月九日付供述調書、検察事務官作成の前科調書、判決謄本二通によれば、被告人は(1)平成二年五月二四日神戸地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年二月、執行猶予三年に処せられ、右裁判は同年六月八日確定したが、(2)その執行猶予期間中に犯した同法違反の罪により平成三年一月三一日神戸地方裁判所尼崎支部で懲役一〇月に処せられ、右裁判は同年二月一五日確定し、同月二六日右(1)の執行猶予が取り消され、平成三年九月三〇日に右(2)の刑の、引き続き平成四年一一月三〇日に右(1)の刑の執行をそれぞれ受け終わったことが認められる。

そして、本件法人税法違反のうち、申告期が既遂時期と解すると、昭和六三年一二月期については平成元年二月二八日が既遂時期で、平成元年一二月期については平成二年二月二七日が既遂時期であり、また、納期限が既遂時期と解すると、昭和六三年一二月期については平成元年三月一日が既遂時期で、平成元年一二月期については平成二年三月一日が既遂時期であり、いずれの場合も本件各法人税法違反は、前記(1)の裁判の確定判決前の余罪となる。

二  そこで、前記一のような前科関係において、本件が前記の(1)の確定判決前の余罪として執行猶予を付し得るかどうかを検討する。

弁護人は、(1)確定判決前の余罪について、最高裁昭和三二年二月六日大法廷判決(刑集一一巻二号五〇三頁)が、刑法二五条一項の「刑に処せられたる」とは、実刑を言い渡された場合を指し、執行猶予の付された場合を包含しないものと解すべきとしているところ、被告人の前記一の(1)の確定判決はあくまで執行猶予であり、実刑判決ではないこと、(2)右最高裁判決やそれ以前の確定判決前の余罪についての執行猶予に関する最高裁判決はいわば救済判決であり、その趣旨を本件において生かすべきであること、(3)被告人には前記一の(1)の確定判決後、実刑判決があるが、本件はあくまで確定した執行猶予付き判決の余罪であり、右実刑判決の余罪ではないこと等を理由に本件については前記昭和三二年の最高裁判決の趣旨からして法律上も執行猶予を付し得ると主張する。

確かに、確定判決前の余罪については、最判昭和二八年六月一〇日(刑集七巻六号一四〇四頁)が、併合罪関係に立つ数罪が前後して起訴され、後に犯した罪につき刑の執行猶予が言い渡された場合には、前に犯した罪が同時に審判されていたら一括して執行猶予が言い渡されていたであろうときは、前に犯した罪につき執行猶予を言い渡すことができるとし、最判昭和二九年一一月五日(刑集八巻一一号一七二八頁)は同旨の判決をなし、最判昭和三一年五月三〇日(刑集一〇巻五号七六〇頁)は、余罪について刑の執行猶予をすることができるかどうかは刑法二五条一項の定める条件によることとし、また、前記最判昭和三二年二月六日の判決は、刑法二五条一項によって刑の執行を猶予された罪のいわゆる余罪について、さらに、同条項によって執行猶予を言い渡すためには、両罪が法律上併合罪の関係にあれば足り、訴訟手続または犯行時等の関係から、実際上同時に審判することが著しく困難若しくは不可能であるかどうか、または同時に審判されたならば執行猶予を言い渡すことのできる情状があるかどうかは問題とならないことを明らかにした。

そして、前記一のとおり本件各法人税法違反は、前記一の(1)の確定判決前の余罪となり、右確定判決は執行猶予付の判決であるから、弁護人主張のように刑法二五条一項を適用して本件につき執行猶予の判決を言い渡すことが出来ると解せる余地もある。

しかしながら、本件事案は前記一のとおり、前記一の(1)の確定判決後、前記一の(2)の実刑の確定判決があり、さらに、右一の(1)の執行猶予の確定判決の執行猶予が取り消され、右(2)及び(1)の確定判決につき刑の執行を受けたという経緯があり、前記最高裁判所の各判決における具体的事案とは異なるものである。

特に、本件においては、前記一の(1)の確定判決後、前記一の(2)の実刑の確定判決があることが問題となる。すなわち、刑法二五条一項の適用を考える場合に、単に確定判決があり、その余罪について判断するだけにとどまらず、右確定判決後に別の実刑の確定判決がある点がこれまでの事案と異なるところである。

ところで、刑法二五条一項一号の「前ニ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルコトナキ者」の「前ニ」とは、執行猶予の判決言渡前という意味であり、最判昭和三一年四月一三日(刑集一〇巻四号五六七頁)は、「現に審判すべき犯罪につき刑の言渡をするその以前に他の罪につき確定判決により禁錮以上の刑に処せられたことのない者を指すのであって既に刑に処せられた罪が現に審判すべき犯罪の前に犯されたと後に犯されたとを問わないことは同号と同条第二号並びに同法第二六条各号就中その第二号とを対照比較することによって明白である」と判示した原審を維持したものである。

弁護人は、前記のとおり最高裁昭和三二年二月六日判決が、刑法二五条一項の「刑に処せられた者」とは、実刑を言い渡された場合を指し、執行猶予の付せられた場合を包含しないとしていることから、被告人の前記一の(1)の確定判決は執行猶予であり、実刑判決ではないことを一つの根拠とするが、右判決は「後者(裁判の確定した罪)につき執行猶予の言渡が刑法二五条一項によりなされたものであれば、前者(前記の余罪)についても等しく同条項により、その執行猶予の条件が勘案されるべきであり、」と述べた直後に「そして、この場合には同条項の『刑に処せられた者』とは、実刑を言い渡された場合を指し、執行猶予の付せられた場合を包含しないものと解すべきことは、所論刑法改正の前後によって差異を生ずるものではない。」としている。右の説明は確定判決があり、その余罪があった場合に右余罪につき刑法二五条一項の要件により執行猶予を付することが出来る根拠として同項の「刑に処せられた者」は実刑を言い渡された場合で執行猶予の付せられた場合を包含しないと解するとしたものであり、本件のように右確定判決後に別の実刑の確定判決がある場合をも考慮しているかについては疑問があり、右の解釈は、余罪についても等しく同条一項により、その執行猶予の条件が勘案されるべきとしたうえで、「刑に処せられた者」とは、実刑を言い渡された場合を指し、執行猶予の付せられた場合を包含しないというのは、同条項の適用要件を前提としており、本件では前記一の(2)の実刑の確定判決が右の実刑判決を言い渡された場合にあたると解せる。

従って、本件では前記一の(2)の実刑の確定判決を受け、さらに、右一の(1)の執行猶予の確定判決の執行猶予が取り消され、右(2)及び(1)の確定判決につき刑の執行を受け、その各執行終了時から五年間を経過していないから、刑法二五条一項一号及び同項二号の要件に合致しない。

また、本件各法人税法違反は、前記一のとおり、前刑の執行猶予中の犯行ではないから同法二項の適用も考えられない。

三  従って、本件では法律上執行猶予を付することが出来ない場合にあたり、弁護人の前記主張は採用できない。

(量刑の事情)

被告人の本件犯行は、ほ脱額が二期合計で一億四五一四万六一〇〇円と高額で、そのほ脱率も二期連続して一〇〇パーセントと極めて高率であり、悪質な犯行と言わざるを得ない。被告人は、本件犯行の動機として、踊り子の出演料の一部を簿外で支払う必要に迫られその簿外資金を作るため、或いは被告会社の事業拡大やストリップ劇場の改装に要する資金確保のためと言うが、これらは本来税引後の内部留保資金によってなされるべきものであり、動機において特に酌量すべきとも思われない。そして、被告人は、ほ脱によって得た資金で割引債券や株式を購入しており、本件は不正蓄財の目的で敢行したと言える。前記脱税額等を考慮すれば本件は弁護人の主張するような罰金相当事案とは言えない。

そこで、被告人は本件各犯行を認め、自ら積極的に捜査に協力する等反省の態度を示していること、被告会社が本税、重加算税等を完納していること、被告人には本件各犯行以前に古い執行猶予付の懲役前科一犯と罰金前科二犯があるだけで同種前科がないこと、本件各犯行が被告人には前記確定判決前の余罪であること、右確定判決の執行猶予が取り消され右判決につき刑の執行を受けたこと、被告人は現在被告会社から身を引き、被告会社の経営から離れていること、被告人はC型肝炎に罹患し経過観察中であること、被告人の父親が当公判廷において被告人の今後の監督を誓っていること、被告人は現在養母と子供の三人暮らしであること等被告人に有利な事情があるところ、前記争点に対する判断で述べたような事情から執行猶予は付けられないが、右の事情を考慮して、主文の刑が相当であると思慮する。

また、被告会社については前記本件各犯行を認め、自ら積極的に捜査に協力する等反省の態度を示していること、本税、重加算税等を完納していることの外に、現在被告会社では代表取締役の細川を初め部長や経理担当者が合議しながら会社を運営し、興行収入を正しく記録する等し収入を正確に記帳していること等を被告会社に有利な事情として考慮し、主文の刑が相当であると思慮する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松下潔)

別紙1の1 修正損益計算書

有限会社 輝企画

自 昭和63年1月1日 至 昭和63年12月31日

<省略>

別紙1の2 修正損益計算書

有限会社 輝企画

自 昭和64年1月1日 至 平成元年12月31日

<省略>

別紙2 税額計算書

有限会社 輝企画

<省略>

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